概要
IT資産は、現代の企業活動における中核を担う存在です。サーバー、PC、ソフトウェアライセンス、モバイル端末、ネットワーク機器など、日々活用されているIT資産は、適切に管理されて初めてその価値を発揮します。
しかし、IT資産が適切に管理されていなければ、セキュリティリスクの温床となるだけでなく、業務効率の低下など、企業全体への影響も避けられません。そうした中、定期的な「棚卸」は、IT資産を正確に把握・管理するために不可欠な活動です。
この記事では、IT資産棚卸の定義からその必要性、実施しない場合のリスクまでを解説し、なぜ今、IT資産棚卸が求められているのかを説明します。
IT資産管理における棚卸とは
IT資産棚卸とは、企業が保有するすべてのIT資産(ハードウェア、ソフトウェア、クラウドサービス等)について、現物と帳簿上の情報が一致しているかを確認し、正確な資産状況を把握する作業です。
具体的な作業内容には以下が含まれます:
- 各端末(PC・モバイル・サーバー)の物理的な所在確認
- ソフトウェアのライセンス数とインストール状況の突合
- セキュリティパッチ適用状況の確認
- 使用状況に基づく不要資産の抽出
- 登録情報(資産管理台帳)の更新・整備
これにより、管理されていないデバイスやライセンス、使用されていないソフトウェアなどの存在を明らかにし、適切な対策や改善が可能になります。
棚卸の必要性
なぜIT資産の棚卸が必要なのでしょうか?主な理由は以下の通りです:
1. セキュリティリスクの低減
資産の所在が不明ある状態やPCのインストールソフトウェアを管理できていない状態では、不正アクセス・情報漏洩・マルウェア感染のリスクが高まります。未管理端末が社内ネットワークに接続されていれば、セキュリティ対策が行き届かず、重大なインシデントにつながる恐れがあります。
2. コンプライアンスの遵守
多くの企業は、個人情報保護法、ISMS(ISO27001)などのコンプライアンス要件に対応する必要があります。IT資産の正確な管理は、これら要件を満たすための基本的な条件です。棚卸を通じて管理状態を明確にし、内部監査や外部監査にも対応できる体制を構築することが可能になります。
3. コスト最適化と予算管理
使われていないライセンスや機器を放置しておくことは、無駄なコストの発生につながります。棚卸によって不要な資産を明確にし、予算の適正化や資産の再配置が可能になります。
棚卸を実施しないことによる危険性
棚卸を怠ることには、以下のような深刻なリスクが存在します。
1. 情報漏洩リスクの増加
棚卸が行われていないと、所在不明なPCやモバイル端末が社内に存在し続けることになります。これらの端末が紛失や盗難に遭えば、内部情報や顧客データが流出するリスクが極めて高まります。
特に、資産紛失に起因する企業情報漏洩は、企業の信用を一気に失墜させる大事件に発展しかねません。過去には、棚卸未実施の結果、退職者が保有していた端末から個人情報が漏洩したケースも報告されています。
2. シャドーITの蔓延
正式に管理されていないIT資産(シャドーIT)が社内で使用されると、セキュリティポリシーが適用されない環境が発生します。こうした資産は、マルウェアに感染しても気づかれず、組織全体のセキュリティに重大な影響を及ぼします。
3. コンプライアンス違反
資産管理の不備は、外部監査において重大な指摘を受ける可能性があります。特に、法令や業界ガイドラインで棚卸を含む資産管理が義務化されている場合、罰則や行政指導の対象になることもあります。
まとめ
IT資産棚卸は、単なる在庫確認ではなく、セキュリティ対策・コスト管理・コンプライアンス対応を支える土台となる重要な業務です。
実施には手間や工数がかかることもありますが、その分、得られる効果は大きく、企業全体のリスクマネジメント強化に直結します。
特にテレワークの普及やクラウド利用の拡大により、IT資産の分散化が進む今だからこそ、棚卸の重要性はより一層増しています。定期的な棚卸を計画的に実施し、IT資産の「見える化」を進めていきましょう。
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